問題
今回は第69回診療放射線国家試験「診療画像検査学」より磁化率アーチファクトの原因とその対策についての問題を解説していきます。
なお、問題文及び画像は厚生労働省HPより引用しております
午後17
頚椎のMRIを依頼された。その患者の頚椎X線写真を示す。この患者のMRIを行う際に適切なのはどれか。なお、使用されている金属はMRIを行なっても安全な素材とする
1. 厚いスライスを用いる
2. 広い受信バンド幅を用いる
3. 撮影条件を変更する必要はない
4. グラディエントエコー法を用いる
5. 1.5Tよりも3TのMRI装置を用いるのが望ましい
解説
この問題は患者が頚椎後方固定術の際に体内に留置した「金属製の物質」をMRIにて検査を行う際の対策について問われている問題です
「金属」と言えば金属アーチファクトがすぐに予想できます
正確に言えば、MRIでは磁石の性質を用いるため金属による「磁化率アーチファクト」を考える必要があります
※磁化率を考えるとき、多くの場合は金属が要因のため「磁化率アーチファクト=金属アーチファクト」でも問題ないです
では磁化率アーチファクトの原因である【磁化率】について考えていきましょう
磁化率とは
磁化率とは物質の磁化(磁石のなりやすさ)の程度のことであります。
磁化率の度合いによって反磁性体・常磁性体・強磁性体に分けられます
磁化率アーチファクトの原理
図のように体内に磁性体(金属等)が存在する時、その部分の磁場は強くなる
傾斜磁場を印加することによって位置情報を分析するとき、その磁性体の影響で磁場の強さが同じ場所が存在する
MRIでは傾斜磁場によって作られる磁場の差でその共鳴周波数が異なることを利用しその共鳴周波数を用いて位置を特定する
言い換えれば、位置が異なる場所だとしてもそのプロトンの共鳴周波数が同じであった場合、MRIの原理上そのプロトン同士は同じ位置に存在すると誤認識されてしまうということでなる
誤認識されたプロトンが本来存在していた位置はデータが無になるためその部分は画像上で黒く抜けてしまうということなる
これを一般的に磁化率アーチファクトといい、磁化率が異なる場所では特にその境界では位置の誤認識により画像が歪むという現象が起きる
POINT:金属等で画像が黒くぬけてしまうのは原理上どうしようもありません
では、磁化率アーチファクトの対策は存在しないんでしょうか?
磁化率アーチファクトによる第二の影響
仮に金属等の存在によりその部分が黒く抜けてしまう現象を単に磁化率アーチファクトというとすれば、その磁化率アーチファクトによってその周辺部分も黒く抜けてしまうことがあります
一般的にいう磁化率アーチファクトの対策とは「その周辺部まで画像が歪んでしまうことに対する対策(第二の影響)」である
一般的に高磁場になればなるほど磁場の不均一性は大きくなります
(※)高磁場では歳差運動が大きくなることでより物質間の共鳴周波数差が顕著になります。これを「磁化率が強調される」といい、磁化率の強調で磁場の不均一性をより大きくする
磁場の不均一が大きくなるということは、位相分散も大きくなります(横緩和時間の短縮)
仮に、金属のような強磁性体が存在すれば磁場の不均一性もさらに強調されます
ここでいう第二の影響とは「位相分散によって信号値が低下すること画像として黒く抜けてしまうこと」を指します
磁化率アーチファクトの対策
ここでは、磁化率アーチファクトについて細かく2つの要因からなると説明してきました
「第二の影響」(勝手につけた名称)による対策、すなわち位相分散による対策を考えていきましょう
図のように位相分散における対策は
- 磁場強度を下げる
- 再収束パルスを用いる
- エコー収集時間を短くする
になります。ここから派生してバンド幅などを考慮するようにしましょう
解説
遅くなりました。それでは各選択肢を見ながら問題を解いてみましょう
1. 厚いスライスを用いる
不正解
スライス厚が大きいとそのスライス中に異なる磁性体がより多く存在することより位相分散の促進につながる
2. 広い受信バンド幅を用いる
正解
BWを広く取ることはサンプリング時間を短くすることである。短い時間でデータを収集できるため位相分散の影響を低減できる
3. 撮影条件を変更する必要はない
不正解
今までの解説の通り対策しなければならない
4. グラディエントエコー法を用いる
不正解
GRE法では再収束パルスを用いないためより位相分散の影響が大きくなる
5. 1.5Tよりも3TのMRI装置を用いるのが望ましい
不正解
高磁場ではより磁場不均一になりやすくなる為、位相分散が大きくなる
以上より、正解は【2】になります
お疲れ様でした
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